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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)11158号 判決

大阪市浪速区戎本町一丁目七番二三号

原告

株式会社大阪冠婚葬祭互助会

右代表者代表取締役

高瀬時人

右訴訟代理人弁護士

桐畑芳則

松村信夫

大阪市平野区瓜破東四丁目一番八三号

被告

株式会社栄光堂セレモニーユニオン

右代表者代表取締役

近藤盛之進

右訴訟代理人弁護士

増田淳久

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告が株式会社大阪冠婚葬祭互助会利用契約を締結している顧客を施主として、後日、原告と当該顧客との右利用契約を当該顧客に解約させることを企図し、かつこれを秘して葬儀などの葬祭業務を請負って施行し、もって右顧客をして原告との右利用契約を解約せしめてはならない。

二  被告は、原告が株式会社大阪冠婚葬祭互助会利用契約を締結している顧客に対して、「被告が原告と提携している」あるいは「被告から冠婚葬祭の役務の提供を受けるにあたっては、顧客が原告に支払った右契約にもとづく積立金が利用できる(あるいは右積立金を差し引かせてもらう)」旨の誘引・表示を行ってはならない。

三  被告は、別紙目録(一)記載の謝罪広告を同目録(二)記載の方法で掲載せよ。

第二  事案の概要

一  事実関係(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。)

1  原告は、冠婚葬祭の施行請負を業とする株式会社であり、主として結婚式・披露宴及び葬儀の施行を中心とした業務を行っている。

被告は、仏壇仏具の販売、葬儀・結婚式の請負などを業とする株式会社である。

2  原告は、昭和四一年五月から、互助会利用契約の制度を導入している。互助会利用契約とは、顧客が互助会に加入して会員となり、毎月一回一定額を積み立てていくもので、会員は、加入者証の発行を受け、冠婚葬祭の事由が生じた際、積立額に応じた規模と価額の役務の提供を受けること、又は、追加支払をすることによって積立額を超える規模と価額の役務の提供を受けることができる。原告の場合、現在の積立額は、毎月一回一口当たり二〇〇〇円で、現在の会員数は約八四万二七七〇口である。

3  冠婚葬祭を業務とする全国の業者では、上部組織として、社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(以下「互助協会」という。)を組織しており、原告及び被告も右互助協会に加盟している。

互助協会は、同一営業区域内での業者間で、会員が他業者に対して冠婚葬祭の役務の提供を依頼した場合でも、その積立金を、役務の提供を行った業者が、当初から自己の会員として積み立てていた積立金としてそのまま使うことができる(以下「移籍」という。)という業者間の取決めをすること禁止している。これは、かような取決めが行き過ぎると、互いに他業者の会員を横取りするという弊害が生じることから、これを防止することを目的としている。

しかしながら、原告と被告は、互助協会の指導にかかわらず、暗黙の合意のもとで事実上移籍を認めてきた。

4  原告は、平成六年三月一九日に差し出した内容証明郵便で、被告に対して今後移籍を認めない旨の通知をした。

二  原告の請求

原告は、右一4のとおり、原告が平成六年三月一九日に差し出した内容証明郵便で、被告に対して今後移籍を認めない旨の通知をしたにもかかわらず、被告は、平成七年五月中旬頃から、原告と互助会利用契約を締結している顧客(以下「原告会員」という。)自身又はその家族が死亡したため葬儀を施行する必要が生じた際、原告会員又はその家族(以下「原告会員等」という。)に対して、被告に葬儀の施行を依頼するよう勧誘するに当たって、「当社は株式会社大阪冠婚葬祭互助会とは提携しているので、積立金はそのまま使えますよ。」「同じ互助会ですから積立会費は利用でき、葬儀代金から差し引かせていただきます。」等虚偽の事実を告げて、原告会員が原告との間で積み立てた積立金をそのまま利用できると誤認させて、被告に葬儀の施行を依頼させて葬儀を施行した後、後日、積立金相当額の葬儀代金が未払いとなっている旨告げて原告との互助会利用契約を解約をさせ、解約により原告から返還される解約返戻金をもって、未払いとなっている葬儀代金の一部を支払わせており、右被告の行為は、不正競争防止法二条一項一〇号の「不正競争」に当たる、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)二条九項、一九条、不公正な取引方法(昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号。以下「一般指定」という。)九項、一五項にいう「不公正な取引方法」に当たる、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)四条一号又は二号にいう「不当な表示」に当たる、民法七〇九条の不法行為を構成すると主張して、被告行為の差止め及び謝罪広告を求めるものである。

これに対して、被告は、原告会員等から依頼を受けて葬儀を施行したこと、葬儀施行後、原告会員等が原告との間の互助会利用契約を解約して得た返戻金から未払いとなっている葬儀代金の支払を受けたことは認めるものの、原告会員等に対して「当社は株式会社大阪冠婚葬祭互助会とは提携しているので、積立金はそのまま使えますよ。」「同じ互助会ですから積立会費は利用でき、葬儀代金から差し引かせていただきます。」と告げる等して、原告会員が原告との間で積み立てた積立金をそのまま利用できると誤認させて、被告に葬儀施行を依頼するように勧誘したことはないと主張し、原告の主張を争っている。

三  争点

1  被告は、勧誘行為を行うに当たって、不正競争防止法二条一項一〇号にいう「役務の質、内容について誤認させるような表示」をしたか。

2(一)  被告が勧誘行為を行うに当たって、独占禁止法二条九項、一九条及び一般指定九項、一五項にいう「不公正な取引方法」又は景表法四条一号、二号にいう「不当な表示」をしたといえるか。

(二)  被告の勧誘行為は民法七〇九条の不法行為を構成するか。

(三)  被告が勧誘行為を行うに当たって、「不公正な取引方法」又は「不当な表示」をしたといえ、あるいは被告の勧誘行為が民法七〇九条の不法行為を構成する場合、差止めを請求することができるか。

3  被告の行為が違法である場合の謝罪広告の必要性。

第三  当事者の主張

一  争点1(被告は、勧誘行為を行うに当たって、不正競争防止法二条一項一〇号にいう「役務の質、内容について誤認させるような表示」をしたか)について

【原告の主張】

1 被告は、原告会員等に対して「当社は、大阪冠婚葬祭互助会とは提携しているので、積立会費はそのまま使えます。」「同じ互助会であるから積立会費は利用でき、葬儀代金から差し引かせていただきます。」と虚偽の事実を告げて、被告に葬儀施行を依頼するように勧誘している。右事実は、次のような事実から裏付けられる。

(一) 「御葬儀請求書」には、原告会員が原告との間での互助会利用契約に基づき積み立てた会費と同額を、マイナスで表示をしてあたかも葬儀代金から差し引いて減額するかのような記載をしている。しかしながら、現実には、マイナスで表示をした金額相当額が未入金となっているので、原告との間の互助会利用契約を解約してほしい旨申し入れ、原告会員等をして互助会利用契約の解約により返還される返戻金をもって未払い分を完済してしまいたいという気持ちにさせ、いわば半強制的に解約を決意させ、現に解約させている。しかも、被告社員は解約のために原告方に赴く原告会員等を送迎している。

(二) 被告は、勧誘が成功し、葬儀施行の依頼を受けた際、原告会員等から加入者証を預かっている。これは、積立金の金額を知るため原告に問い合わせをするには会員番号が必要であること、将来原告会員等に原告との互助会利用契約を解約させるためには加入者証の返還が必要となることから、あらかじめ確保しておくためである。

(三) 被告においては、遺体を搬送する寝台車の運転者が営業社員を兼ねているし、営業社員の給与体系には歩合給が取り入れられており、葬儀施行依頼を獲得すればそれだけ給与が多くなる制度になっている。

2 右1のような勧誘行為の結果、原告会員等は、自ら何らの手続をしなくても、原告において積み立てた積立金が原告と被告との間で清算され、被告による葬儀施行の代金に振り返られると信じて被告に葬儀施行を依頼したところ、後日、積立金相当額が未入金扱いで、再度支払を求められるという負担を負わされ、被告による送迎付きとはいえ原告に赴かされて互助会契約を解約することを余儀なくされた(このこと自体、負担、不利益を甘受させられるものである。)。しかも、この解約により返還されるのは積立金から一定の手数料を控除した金額であることから一定の手数料相当額が不足するところ、当該金額については被告が事実上免除することにより支払を免れるという屈辱的な負い目を負わされる。

3 以上を総合すると、被告は、原告会員等に対して「当社は、大阪冠婚葬祭互助会とは提携しているので、積立会費はそのまま使えます。」「同じ互助会であるから積立会費は利用でき、葬儀代金から差し引かせていただきます。」と虚偽の事実を告げて、被告に葬儀を依頼するよう勧誘し、右勧誘の結果、原告会員等は、自ら何ら手続をしなくても、原告において積み立てた積立金が原告と被告との間で清算され、被告による葬儀施行の代金に振り返られると信じて被告に葬儀の施行を依頼したにもかかわらず、後日、解約手続をとらねばならないのであるから、この点において提供されると信じた役務内容につき誤認が生じているといえる。

4 よって、被告は、勧誘行為を行うに当たって、不正競争防止法二条一項一〇号にいう「役務の質、内容について誤認させるような表示」しているというべきである。

【被告の主張】

1 被告は、原告会員等に対して、原告と被告とは提携関係にあるとか、原告での積立金はそのまま使用できるとか、原告と被告とは同じ互助会の会社であるから、積立金は利用できるので葬儀代金から差し引かせていただきますと告げて、被告へ葬儀施行を委託するよう勧誘又は誘引したことはない。

被告の寝台車乗務員や葬儀部門担当者は、業務遂行時は常に会社所定のブレザーを着用し、かつ、ブレザーの上着胸部分には顔写真付き会社名入りのネームプレートをつけており、原告の社員と見間違えることはないし、寝台車での遺体搬送中又は搬送先において、原告会員等に、原告と被告とは提携関係にあるとか、同じ互助会の会社だからといった見え透いた虚言を弄して勧誘・誘引することはあり得ないし、そのような行為をする必要もない。

2 葬儀の施行には、職域、町内会、労働組合、老人会等が複数関与することがしばしばあり、故人や喪主、遺族等が原告と互助会利用契約を締結し、加入していたとしても、どの葬儀会社により葬儀を施行するかは、加入者の意思によって決まるとは限らない。他の遺族・親族の意見や職域・町内会等の取決め等によって、別の葬儀会社に決まることも往々にしてあるし、そもそも原告と互助会利用契約を締結して加入しているからといって、原告が排他的独占的に葬儀実施権を有しているわけではない。通産省が互助会加入者の解約について解約の自由を認め、これを互助会側に通達の形で励行するように再三告示しているが、これは、原告のように、互助会加入者については常に冠婚葬祭を施行する専属実施権があるかのように考え、ユーザーの自由選択権や利益を無視し、拘束しようとする態度の業者がいることに問題があるとして警告しているものである。

3 被告は、喪主、遺族、親族等から、故人又は遺族が原告の互助会に加入しており積立金を有しているがこの分を差し引いてもらえないかとか、右積立金をどうしたらよいかという質問を受け、相当額を葬儀の段階では差し引かせてもらうが、互助会契約での積立金は、そのままにしておき別の機会に使用することもできるし、解約することもできると説明すると、原告会員等の中に解約システムを知って解約をする人がいたにすぎない。

二  争点2(一)(被告が勧誘行為を行うに当たって、独占禁止法二条九項、一九条及び一般指定九項、一五項にいう「不公正な取引方法」又は景表法四条一号、二号にいう「不当な表示」をしたといえるか)及び争点2(二)(被告の勧誘行為は民法七〇九条の不法行為を構成するか)について

【原告の主張】

1(一) 不公正な競争方法を用いて競争者の顧客を奪取し、あるいは競争者と顧客との取引を妨害する行為は、自由競争社会の前提たる競争者間の公正かつ自由な競争を阻害するおそれがあるので、不正競争防止法のほか、独占禁止法、景表法及び不法行為法等によって厳しく規制されている。

独占禁止法の不公正取引においては、自己の提供する商品又は役務の内容、取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、自己と取引するように競争者の顧客に不当に誘引する行為(一般指定八項「ぎまん的顧客誘引」)、景表法においては、商品又は役務の内容・価額その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認され、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがある表示(同法四条一号及び二号)が、いずれも競争手段の面から不公正な競争方法であるとしてこれを規制するものである。

また、独占禁止法一九条の不公正な取引方法の中には、自己と競争関係にある他の事業者とその取引の相手方について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他の方法によって、その取引を不当に妨害すること(一般指定一五項「取引妨害」)が含まれているが、これは競争者と顧客との取引を直接妨害することによって自己が競争上、優位に立つことを規制し、正常な競争秩序の維持保護を図るものである。

(二) 本件において、被告は、寝台部の営業職にある社員に、遺体搬送中又は搬送後に原告会員等に対して、強引に被告に葬儀を委託するように勧誘させ、原告の互助会に加入していることを聞き出すと「当社(被告)も全日本冠婚葬祭互助会の会員であり、原告と提携関係にあります。」「原告の掛け金は当社でも使えます。」等虚偽の事実を告げて、原告会員等に、何らの負担を負うことなく原告との互助会利用契約において積み立てた積立金を被告が施行する葬儀代金の一部に充当できる旨、又は被告においても原告の互助会と同一の条件で葬儀を行うことができる旨誤信させて被告と葬儀委託契約を締結させたのである。すなわち、被告は、被告の提供する役務の内容又はその対価の支払方法(取引条件)に関して実際のものより優良又は有利と誤信させる誘引・表示を行っているのであり、被告の右の行為は独占禁止法一九条、一般指定九項、景表法四条一号、二号に該当する。

2(一) 独占禁止法二条九項、一般指定一五項は、「自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害すること」を独占禁止法違反行為として禁止している。

この類型には、競争者の取引の相手方に対する契約の不履行の誘引には、競争者が契約した顧客を、解約金を自己負担する等の手段によって自己と契約するように勧誘する等の方法を用いる場合も含まれる。

(二) 原告会員は、将来、冠婚葬祭の施行が必要になったときは、原告にその施行を委託し、その費用の全部又は一部に充てる趣旨で毎月一定額の積立金を積み立てているのであるから、これら原告会員は原告に対し、将来の冠婚葬祭の委託を予約しているものである。また、仮にそうでないとしても、少なくともこれらの者は原告と互助会利用契約を締結することによって、将来冠婚葬祭の委託契約を締結しようとしているものである。現に、原告は、互助会利用契約をした顧客から、冠婚葬祭の依頼があったときにはこれに積極的に応じ、会員規約で定められた価額で冠婚葬祭サービスを提供するなどのサービスを行っており、そのため多数の互助会会員から冠婚葬祭の依頼を受けてきた。

これに対し、被告は、原告会員等に対して、「被告は原告と提携関係にある。」「原告で積み立てた積立金は被告の施行する葬儀にもそのまま使用できる。」等々偽計を用いて葬儀施行委託契約を締結させているのであるから、この点において、被告は競争者である原告とその顧客との取引を妨害している。

(三) また、被告は、原告会員等から互助会加入を示す加入者証を預り、葬儀が終了した後になって、原告会員等に対し「未入金になっている」等と言って、被告の社員が被告の会社車両を使って原告方に連れて行き、右加入者証を手渡して原告との互助会利用契約を解約させ、その返戻金を葬儀費用の未収金分として充当させている。

被告は、原告会員等と葬儀施行の委託契約を締結する際、原告における積立金相当額を減額するのは、原告会員等から頼まれてサービスの一つとして後に原告との互助会利用契約を解約した返戻金をもって右費用に充当するまでの間、一時的に積立金相当額の支払を猶予したにすぎない旨主張するが、そうであれば、原告との互助会利用契約を解約し、その返戻金をもって未払金に充当するか、他から資金を得て未払金に充当するかは本来原告会員等の自由であるから、被告が加入者証を預かる必要はないはずである。すなわち、被告が加入者証を預かり、後日、預かった加入者証で原告との互助会利用契約を解約するように慫慂する行為(ときには、被告が車を用意し、同道して解約させている行為)は、明らかに原告会員等に原告との互助会利用契約を解約させてその返戻金をもって自己の葬儀費用請求債権の満足を得ようとするものであり、被告のこのような行為は、独占禁止法二条九項、一般指定一五項の違法な取引妨害行為又は競争者に対する営業妨害行為に該当することは明らかである。

3 仮にそうでないとしても、被告の右行為は、商業上の善良な慣習・秩序に反する不正競業行為であり、民法七〇九条の不法行為に該当する。

不正競争行為に関して、いわゆる一般条項を有するドイツ不正競争防止法、スイス不正競争防止法等では、競争者の顧客(潜在的顧客)に対して、自らその者と契約するために、競争者との契約違反を唆す等の方法により、不当に他人の顧客を奪取する行為は、商業上の善良な慣習・秩序に反する行為であることを理由に不正競争行為とされているし、スイスでは、一九八六年に不正競争防止法(不正競争に対する連邦法)が改定され、従来、判例により認められていた「契約違反の唆し」行為を独立した不正競争行為として規定されたのであり、国際的にも、競争者の顧客(潜在的顧客)を自己と取り引きさせるため、当該顧客に対して競争者との契約違反を唆す行為は、不正競争行為となることが認められている。我が国でも、同趣旨の裁判例があり、いわゆる違法な方法での契約の横取りが不正競争行為に該当するとする学説も存在する。

以上のような外国法令及び裁判例、学説に照らしても、本件における被告の行為は商業上の善良な慣習・秩序に反する競争行為であり、民法七〇九条に該当するといわなければならない。

【被告の主張】

1 原告が主張する、独占禁止法二条九項、一九条、一般指定九項、一五項、景表法四条一号、二号は、いずれも正常な商慣習に照らして、不当な利益又は不利益をもって競争者の顧客に自己と取引するように不当に誘引し、又は強制し、公正な競争を阻害するおそれのある行為であるから、これらの行為を禁じているのである。しかしながら、本件において、被告は、正常な商慣習に反して競争者の顧客に自己と取引するように不当に誘引したとか、右取引を強制したということは一切ないし、また、公正な競争を阻害するおそれのある行為をしたこともない。

2 葬儀社の選定は、喪主、遺族、親族の意向のほか、町内会、職域、労働組合、老人会等の意向で決まることもあり、互助会に加入しているからといって、必ず互助会で葬儀の施行がされるとは限らない。また、自社での葬儀の施行を勧誘・誘引するとしても、それはあくまでも自社での葬儀の質・内容などをアピールするものである。葬儀の施行は、単なる物品の販売と異なり、精神世界での消費者に対する満足感の付与やサービスが役務の内容として必要不可欠な要素となるのであって、葬儀社の過去の実績や遺体搬送時の心遣いなどもかなりのウェイトを占めるのであるから、仮に金銭的な利益の供与を示して誘引しても、成功する確率は低く、むしろ、互助会の積立金の値引きを誘引材料とすることは、遺族等の反発を誘うこともあり、そのようは方法はとり得ない。

被告は、二〇数社の会社、職域団体、労働組合等と割引施行の特約店指定の契約をし、また、各種カード会社(約八〇社)とも提携して割引制度を実施し、さらには、多種の町内会、老人会等とも割引実施の特約店契約をしている。このため、原告と互助会利用契約を締結していることから原告の互助会における特典を利用するよりも、被告に葬儀施行を委託したほうがメリットが大きいとして、被告と葬儀施行の委託契約をするケースもあるのである。

確かに、遺族らが被告による葬儀の施行を望み、決定した後施行条件の話の中で、原告の互助会に加入していること、積立金があることなどに話が及び、積立金相当額を葬儀代金からいったん差し引くということになることはあるが、これは原告会員等との葬儀施行の委託契約に限ったことではない。

三  争点2(三)(被告が勧誘行為を行うに当たって、「不公正は取引方法」又は「不当な表示」をしたといえ、あるいは被告の勧誘行為が民法七〇九条の不法行為を構成する場合、差止めを請求することができるか)について

【原告の主張】

1 独占禁止法又は景表法違反に対しては、公正取引委員会による警告、勧告、排除命令などの排除措置が設けられており、公正取引委員会によるこのような権限の発動によって再発を防止することができるが、独占禁止法や景表法に違反する行為は、単なる行政法規違反にとどまるものではなく、民法上も公序良俗に反し、違法である。独占禁止法又は景表法は、市場における公正かつ自由な競争秩序を維持発展させることを目的としているところ、ここにいう市場は、私人間の取引行為の集積によって形成されるものであり、究極的には独占禁止法自体が目的とする「公正かつ自由な競争」も私人間における公正かつ自由な取引という私益が集積したものにほかならないからである。このことは、独占禁止法が措置請求を行う権利を認め(同法四五条一項)、独占禁止法違反行為を行った事業者に対して、被害者が損害賠償請求権を有することを定めている(同法二五条)ことからも明らかである。

そして、独占禁止法又は景表法に違反する行為が民事上も違法性を有することは、従前から裁判例も認めている。

2 財産権の侵害につき、民法が明文で差止請求権を認めているのは、占有権侵害に対する占有訴権(一九七条ないし二〇〇条)のみであるが、判例は、所有権その他の物権の侵害に対しても、解釈上の妨害排除、妨害予防等の物権的請求権を認めており、本来債権にすぎない不動産賃借権についても登記等の対抗要件を備えていることを要件として妨害排除請求権を認めている。また、個人の身体生命等人格権の侵害はもとより、名誉、声望に対する侵害やパブリシティのごとき個人の肖像、名称等の財産的価値に対する侵害に対しても差止請求権を認めているのであり、一定の財産的利益の侵害に対して、差止請求権を認めるか否かは、侵害行為の違法性の程度、被侵害利益の内容、侵害を回避するための方法としての必要性の程度の相関関係において決定されるのである。

本件の場合、被告の行っている欺瞞的顧客誘引や不当表示等は、専ら原告の顧客に対して行われており、また競争者に対する取引妨害も原告に対してされており、これにより損害を被っているのは専ら原告である。また、被告による独占禁止法又は景表法に違反する行為は既に長期間にわたり執拗に繰り返されており、今後も継続される可能性が極めて高い。さらに、公正取引委員会は、私人の措置請求についても当該違法事実を審査し、排除措置をとるか否かについて広範な裁量権を有しているため、原告が被告の本件違反行為に対して措置請求を行ったとしても、直ちに適切な排除措置が行われるかは疑わしい。そのうえ、被告の行為によって、原告は現に次々と積立金のみならず、互助会利用契約をした顧客を失っているのであって、このような原告の営業上の損失は、事後的な損害賠償請求によっては回復することが困難である。これらの事情に鑑みると、本件において、被告の独占禁止法及び景表法違反行為に対して原告は差止請求権を有していると解すべきである。

四  争点3(被告の行為が違法である場合の謝罪広告の必要性)について

【原告の主張】

被告の行為によって、原告が被った信用損害を回復するために、被告に対して、謝罪広告を行わせる必要がある。

被告が「被告と原告とは提携関係にある。」「原告の互助会の積立金は、被告の葬儀でも使用できる。」旨告げるという不正競争行為又は不当表示をしたことにより、原告は、互助会利用契約を締結した顧客を奪われ、その結果、これらの者から葬儀施行を委託される機会を失するなど財産的損害を被っただけでなく、被告に葬儀施行を委託した顧客の多くが、被告から「原告との互助会加盟契約によって積み立てられた積立金が被告に支払われていないので、右金員に相当する部分の葬儀費用が未納になっている。ついては、原告との互助会利用契約を解約して支払ってほしい。」と告げられたため、原告会員が互助会利用契約に基づき積み立てた積立金を、当然原告は被告と原告会員等との葬儀施行の委託契約に基づく葬儀費用の一部に充当させるべきところ、原告が不当に拒み遅延していると誤解する顧客も多く、そのため、原告との互助会利用契約を解約して解約返戻金を受け取った原告会員等の中には「互助会に不信感を持つ。」「互助会に不安を感じた。」等々不満を述べる者もいる。

右のような不信感や不安は、被告から同種の勧誘を受け、かつ、事後的に原告との互助会利用契約を解約した原告会員等の大多数が多かれ少なかれ持つものと思われ、原告会員等にこのような誤解を生じさせた結果、原告は損害賠償では回復しがたい信用上の損害を被った。

そこで、原告は、本来当然請求すべき逸失利益や信用毀損等に基づく損害賠償請求に代えて、謝罪広告を求めるものである。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(被告は、勧誘行為を行うに当たって不正競争防止法二条一項一〇号にいう「役務の質、内容について誤認させるような表示」をしたか)、争点2(一)(被告が勧誘行為を行うに当たって、独占禁止法二条九項、同一九条及び一般指定九項、一五項にいう「不公正な取引方法」又は景表法四条一項一号、二号にいう「不当な表示」をしたといえるか)及び同(二)(被告の勧誘行為は民法七〇九条の不法行為を構成するか)について

1  各項掲記の証拠、甲第八号証、証人植垣雄一郎、同片岡良雄、同徳山孝三の各証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、冠婚葬祭の施行請負を業とする株式会社であり、主として結婚式・披露宴及び葬儀の施行を中心とした業務を行っている。葬儀については、北大阪祭典(大阪市淀川区所在)、南大阪祭典(大阪市浪速区所在)、北摂大阪祭典(大阪府茨木市所在)及び平野大阪祭典(大阪市平野区所在)のほか一か所合計五つの斎場があり、結婚式・披露宴については、北平安閣(大阪市淀川区所在)、南平安閣(大阪市浪速区所在)及び堺平安閣(大阪府堺市所在)の三つの会館がある。

原告が運営している互助会利用契約の内容について、平成三年一二月二一日以後適用の約款には次のような記載があり、それ以前の約款(昭和五三年四月二一日以後適用、昭和五五年八月一日以後適用、昭和五六年四月二二日以後適用、昭和五七年五月二〇日以後適用)にもほぼ同趣旨の記載がある。(甲一の1ないし4、二)

「第1条 加入

(3) 利用権はご加入者の承諾によりご家族の方でもご使用できます。

(4) 加入者の地位及び権利(支払義務、利用権、解約払戻請求権等を含みます)は、あらかじめ当社の承諾を得て譲渡出来ます。(略)」

「第2条 役務の内容

契約金額に対し当社が提供する役務は別記のとおりとし、冠婚葬祭のいずれの場合にも一人契約金額一二万円迄一回に限り利用になれます。」

「第6条 解約及び払戻金

(2) この契約は、加入者の申出により解約することが出来ます。(略)

(4) 前項(1)ないし(3)により解約したときは、加入者の支払済金額から所定の手数料を差し引いた次表の金額を、解約された日から六〇日以内に加入者本人にお返しします。(略)」

「第7条 営業地域

当社の営業地域は次のとおりです。

大阪市・堺市・松原市・門真市・守口市・吹田市・豊中市・大東市・寝屋川市・四条畷市・藤井寺市・羽曳野市・高石市・泉大津市・池田市・枚方市・八尾市・交野市・柏原市・和泉市・富田林市・河内長野市・茨木市・高槻市・東大阪市・摂津市・岸和田市・箕面市・大阪狭山市・南河内郡(河南町・太子町・千早赤阪村・美原町)泉北郡忠岡町・三島郡島本町

「第8条 利用権の完了

この利用権は、施行利用後完了します。

尚、加入者は月掛金完納時迄にご利用にならなかった場合、利用権はこの約款に定める役務の提供を受ける迄継続されます。」

「第12条 営業地域外への転居及び転居地互助会への移籍加入

加入者が当社の営業地域外へ転居された場合、転居地にその地域を営業地域とする他の互助会が存在し、かつその互助会が移籍加入を引受けるときに限り、加入者の希望により移籍手続きをいたします。但し、移籍後は移籍加入互助会の約款に従っていただきます。」

(二) 被告は、仏壇仏具の販売、葬儀の請負、結婚式の請負等を業とする株式会社である。葬儀の施行については葬儀会館仏光殿を使用し、結婚式については法円坂会館を式場として斡旋している。(乙二四)

被告もまた、原告と同様、互助会組織であるところ、その約款には次のような記載がある。

「第2条 加入

(3) 加入者の地位及び権利(利用権、解約払戻金請求権等を含みます。)は、あらかじめ当会の承諾を得て譲渡することができます。(略)」

「第8条 役務の内容

契約金額に対し当会が提供する役務は別記のとおりとし、いずれか一回に限り提供いたします。」

「第12条 月掛金完納後の取扱い

(1) 加入者は、月掛金の完納後もこの契約に定める役務の提供を受けるまで利用権は保存されます。」

「第13条 営業地域

当会の営業地域は大阪府下全域とします。」

「第14条 地域外への転居及び転居地互助会への移籍加入

10ヶ月以上月掛金を支払った加入者が当会の営業地域外へ転居された場合、その転居地にその地域を営業地域とする他の互助会が存在し、かつ、その互助会が移籍加入を引受けるときに限り、加入者の希望により移籍の手続きをいたします。ただし、移籍後は移籍加入互助会の約款に従っていただくことになります。」

「第15条 解約及び払戻金

(2) この契約は、加入者の申出により解約することができます。

(3) 前(1)又は(2)により解約したときは、加入者の支払済金額から所定の手数料を差し引いた次表の金額を、解約された日から60日以内に原則として加入者本人に直接お返しいたします。(略)」

(三) 現在、多くの人は病院で臨終を迎えることから、遺体の搬送が必要となる。原告は、多くの場合、遺族等からの葬儀施行の委託と同時に遺体の搬送の依頼を受けて搬送している。一方、遺族がとくに指定しないなど、病院が葬儀業者に連絡して遺体の搬送を依頼することになることもあり、大半の病院では何らかの形で葬儀業者とつながりがある。被告は、病院の霊安室に案内書類や公衆電話に差し込むと自動的に被告の寝台車部門にダイヤルするテレホンカードを置いて自己の宣伝広告をしているが、主として病院からの連絡を受けて、遺体を病院から自宅等の指定場所へ搬送しているのである。そして、遺体を指定場所に搬送して安置した後、葬儀施行の委託を受けると「御葬儀見積もり明細書」に所定事項を記入の上発行し、葬儀施行後請求書を発行して支払を受ける。(乙二八、検乙一の1、二の4・5・6)

(四) 被告は、平成四年四月一日に喜連西連合振興町会(大阪市平野区喜連西)との間で、平成六年三月二三日に長原振興町会(大阪市平野区長吉長原)との間で、平成六年六月一日に新池島町自治会(大阪府東大阪市新池島町)との間で、それぞれ覚書を交わした。右各覚書は、各町会又は自治会とその家族及び三親等以内の親族につき、各町会又は自治会の指示により被告は葬儀を施行し、その際の代金を値引きすること、自治会内に右覚書の内容を周知させること、何らかの意思表示をしなければ契約は自動的に更新し、延長したものとみなされること等が記載されている。新池島自治会では、新池島自治会館の保守管理の便宜上、会館を使用した葬儀を特定の業者により行うようにするため、右覚書を交わしたものである。(乙二九の7・17・20、四一)

被告は、平成四年八月一五日に瓜破東連合町会(大阪市平野区瓜破東)との間で覚書を交わした。右覚書には、葬儀代金の値引き、被告から町会に対する運営協力金の賛助、連合主催の行事に被告が積極的に参加し、相当額の応援をすること等が記載されている。(乙二九の31)

被告は、平成八年四月一日に財団法人電気通信共済会近畿支部長との間で、利用料金の割引等を定めた「標準規格葬儀取扱いに関する契約書」を締結した。(乙二六の25)

被告は、昭和五九年一〇月五日に株式会社扇屋との間で、同会社が募集する互助会会員による葬儀の施行や会員の紹介による葬儀の施行について定めた「葬儀取扱いに関する契約書」を締結した。(乙二六の30)

さらに、被告は、創価学会から葬儀施行の指定業者の指定を受けている。(乙三二の1・2)

(五) 前記(第二の一3)のとおり、原告と被告は、互助協会が同一営業区域内の業者間では移籍をしてはならないという指導をしているにもかかわらず、事実上移籍を認めていたところ、平成五年度の場合、原告から被告への移籍は四四件・一六〇口で合計五二六万二六〇〇円であるのに対し、被告から原告への移籍は〇件、また、平成六年度の場合、原告から被告への移籍は三九件・一二二口で合計四〇五万三六〇〇円であるのに対し、被告から原告への移籍は〇件、平成七年度の場合、原告から被告への移籍は〇件であるのに対し、被告から原告への移籍は一件・二口で合計一九万六〇〇〇円であった。

(六) 原告は、被告に対し、平成六年三月一五日付内容証明郵便(同月一九日差出し)で、原告が葬儀施行をしようとした際、被告社員が原告社員を名乗った、原告社員が施主宅へ立ち入るのを二ないし三名で妨害した、町内会長よりの依頼であると事実に反した主張をした、被告が原告の関連会社であるかのような発言をしたので、被告に対して面会を申し入れたにもかかわらず面会を拒否されたことを理由に、同日以降、原告と被告の間の移籍を一切受け付けない旨通告した。その後、本件訴訟代理人が代理人となって、被告に対し、平成六年四月三〇日付、同年一一月一五日付及び平成七年六月二九日付の各内容証明郵便で、被告が原告の営業を妨害する行為を行っているとして抗議するとともに、更に繰り返すようであれば法的措置をとる旨警告した。これに対して、被告は、平成六年四月一一日付、同一一月二九日付及び平成七年七月一一日付の各内容証明郵便で、原告が主張するような事実はなく、被告は原告の営業を妨害していない旨回答をした。(甲四ないし七の各1・2、乙五ないし七の各1・2)

(七) 被告は、平成六年五月以降、別添一覧表の故人欄記載の者の葬儀を委託されて同葬儀施行日欄記載の日に施行し、同請求書欄記載の金額を控除した金額を合計金額とする請求書を発行した。同解約者欄記載の者(原告会員等)は、解約日欄記載の日に原告方に赴き同加入者欄記載の原告会員と原告との間の互助会利用契約を解約し、原告会員が積み立てていた積立金総額から所定の手数料を控除した返戻金欄記載の返戻金を原告から受け取った。(甲三の1~46、乙二九の1~29・31~46)

2(一)  原告は、被告が平成七年五月中旬頃から、原告会員等に対し、原告会員自身又はその家族の葬儀施行を依頼するように勧誘するに当たって、被告は原告と提携しているので積立金はそのまま使用できる、同じ互助会なので積立会費は利用でき、葬儀代金から積立金相当額を差し引く旨虚偽の事実を告げて、原告会員等に、原告会員が原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金をそのまま利用できると誤信させ、被告に葬儀施行を委託させて葬儀を施行した後、積立金相当額の葬儀代金が未払いとなっている旨告げて原告との互助会利用契約を解約させてその返戻金をもって未払いとなっている葬儀代金の支払に充てさせており、このような被告の行為は不正競争防止法二条一項一〇号の「役務の質、内容について誤認させるような表示」、独占禁止法二条九項、一九条及び一般指定九項、一五項にいう「不公正な取引方法」又は景表法四条一号、二号にいう「不当な表示」に当たると主張する。

(二)  原告も被告も、互助会利用契約の制度を取り入れており、加入契約を締結している会員が冠婚葬祭の役務の提供を求めたときには、その積立額に応じて役務を提供すること、原告と被告は、営業地域が重なること、互助協会の指導にもかかわらず互いに会員の移籍を容認してきたこと、原告は、平成六年三月一九日に差し出した内容証明郵便をもって、同日以降会員の移籍を認めない旨被告に通知したことは、前示のとおりである。

(三)  原告が、互助会利用契約の解約に訪れた原告会員等に「栄光堂葬祭施行分会員解約状況アンケート」(甲三の14~46)を実施したところ、別添一覧表の番号15ないし18、23、27、28、36、41、42の解約者(原告会員等)が「当社の会費の説明及び証券はどの様にしましたか」という質問に対して「(イ)提携しているので使えますと云い証券を引き上げた」という回答肢を選択していることが認められる。また、原告は、被告社員から原告との互助会利用契約に基づき原告会員が積み立てた積立金の使用についてどのような説明を受けたかについての報告書の提出を求めたところ、別添一覧表の番号1、5、6、10、16、21、24、29、32ないし34、40、43、45の解約者(原告会員等)が、被告社員は被告が施行した葬儀にも使用できるので差し引く旨の説明をしたと記載し、その多くは、被告社員が証券を持ち帰ったと記載していることが認められる(甲九の1~13)。さらに、原告が予め作成した「・・・葬式の説明時に(株)大阪冠婚葬祭互助会に加入している旨告げると、同じ互助会ですし又提携しているので(株)大阪冠婚葬祭互助会の会費は使用できます、との説明を私(空白)が受けました。・・・」という文書に、別添一覧表の番号6、9、10、14、16、24、29、31ないし34、40、43、45、46の解約者(原告会員等)が署名押印していることが認められる(甲一三の2~16)。

以上のように、別添一覧表の番号1、5、6、9、10、14ないし18、21、23、24、27ないし29、31ないし34、36、40ないし43、45、46の解約者は、原告が実施したアンケート等において、被告社員が原告と被告は提携しているので被告に葬儀施行を依頼しても、原告との互助会利用契約に基づく積立金が利用できる等を告げた旨回答している。

また、甲第一七号証(松木輝男の陳述書)及び甲第一八号証(吉崎光次の陳述書)にも、別添一覧表の番号33と32記載の各葬儀に際し、被告社員から「互助会(原告)の掛金は被告で使える。」と言われて、葬儀を被告に任せることとし、証券も被告社員が預って帰ったとの記載がある。さらに、甲第八号証(植垣雄一郎の報告書)及び証人植垣雄一郎の証言中にも、原告渉外部相談課長の職にある植垣が互助会利用契約の解約者から前記のようなアンケート(甲三)の質問事項について聴取し、会員等から同様の苦情を聞いたとの供述部分がある。証人畑中秀勝の証言中にも、原告の互助会利用契約に加入していた右畑中が、妻の葬儀(別添一覧表番号14)に際して、遺体を病院から自宅へ搬送した被告の社員から、葬儀費用の見積書をもらう際に、原告互助会の利用契約を使えるかどうか尋ねたところ、使えると言われ、加入者証も渡した旨の供述部分がある。

(四)  しかし、右甲第三号証中のアンケートに関しては、乙第三二号証の1ないし11によれば、右アンケート回答者の中には、後述のとおり、宗派上の理由や、町内会の取り決め等の理由で被告に葬儀を依頼した者もいることが認められるし、その他、乙第八ないし第一一号証、第一二号証の1・3、第一五ないし第二三号証、第三一号証の1ないし13等に照らせば、右アンケート結果等の信用性は相当減殺されているというべきである。

また、乙第二六号証によれば、被告は、原告・被告以外の互助会(堺互助会、京阪互助会、ベルコ互助会、セレモニー互助会、日本セレモニー互助会、扇屋互助会、互助会セルビス)に加入している者の葬儀を施行し、葬儀代金総額から右互助会での積立金相当額を差し引いた金額を請求していることが認められるところ、扇屋互助会を除く他の互助会とは特段合意書を交わしているものではないにもかかわらず、本件全証拠によるも、これら互助会との間で本件と同様の紛争が生じていると認めることはできない。乙第二六号証から認められる喪主の住所からすると、これら互助会と被告とは営業地域が重なっていると推認できるのに、右各互助会と被告との間で紛争が生じていないことからすれば、被告社員は、被告とこれら互助会とが提携しているので被告に葬儀施行を委託しても、これら被告以外の者との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金が利用できると告げている事実はないものと推認するのが妥当である。

(五)  不正競争防止法二条一項一〇号は、正当な努力によらずして、自己の不利条件の減少・有利条件の増大をはかり、不当に競業上の有利な地位を獲得しようとする行為を規制することを目的としており、独占禁止法二条九項、一九条及び一般指定九項、一五項も同趣旨に基づく規定であることからすると、不正競争防止法二条一項一〇号、独占禁止法二条九項、一九条、一般指定九項、一五項が規制対象としているのは、取引するか否か未だ決まっていない段階における誘引行為であるというべきである。

しかるところ、前記のアンケート結果等(甲三、一七、一八)によれば、原告の互助会利用契約の会員等であった者で被告に葬儀を施行させた者のうちに、葬儀に際して、具体的な時点はともかくとして、被告社員から原告の積立金を利用できる旨告げられ、その後、被告に支払うべき葬儀費用の一部が未収になっていることを通知され、原告の互助会利用契約の解約手続が必要であると告げられ、解約手続を取り(その際、被告社員が自動車で送迎する場合もあった。)、手数料を控除して返戻された金銭を被告に対する葬儀費の未払分の支払に充て、手数料分は被告が負担した例があったことは否定できないところである。しかし、別添一覧表の番号1、5、6、9、10、14ないし18、21、23、24、27ないし29、31ないし34、36、40ないし43、45、46の解約者(原告会員等)が、被告社員から原告と被告は提携しているので被告に葬儀施行を委託しても、原告との互助会利用契約に基づき積み立てだ積立金が利用できる等告げられた時期は、本件証拠上、必ずしも明確ではない。かえって、右番号28の金沢愛子の葬儀についていえば、証人金沢柳一の証言によれば、遺族が被告社員に対し、原告の互助会に入っていることを告げ、その積立金分を葬儀費用から減額してもらう話になったのは、被告に葬儀を依頼した時期より後であったことが認められる。また、右番号14の葬儀についての前記証人畑中の証言に関しても、原告の互助会利用契約による積立金を利用できるとの話が出たのは、既に、被告に葬儀の施行を依頼した後であったと認められる(同証言及び乙三二の2)。

(六)  ところで、葬儀の施行をどの業者に委託するかは、故人や遺族の意向のほか、故人の宗旨・宗派にもより、また、町内会や自治会内に特定の業者に依頼する旨の取り決めが予めある場合にはその取り決めに従うのが通常であるところ、被告は、前記1のとおり、創価学会から葬儀施行の指定業者に指定されているし、また、喜連西連合振興町会(大阪市平野区喜連西)、長原振興町会(大阪市平野区長吉長原)、新池島町自治会(大阪府東大阪市新池島町)と覚書を交わしており、事実上、右町会又は自治会内における葬儀については被告が葬儀施行することになっていることが認められる。前示のとおり、別添一覧表のうち番号1、5、6、9、10、14ないし18、21、23、24、27ないし29、31ないし34、36、40ないし43、45、46の解約者(原告会員等)は、被告社員が原告と被告は提携しているので被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金が利用できる等告げた旨回答しているが、一方、乙第二九号証及び第三二号証によれば、番号10、14、16、17、24、29の葬儀は、故人の宗旨・宗派又は町会・自治会の取り決めに従って被告に施行を委託したことが認められるので、これらの葬儀に関しては、原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金を利用することができる旨被告が告げる前から、既に被告に葬儀施行を委託することが事実上決まっていたというべきである。

(七)  また、葬儀施行をどの業者に委託するかは、提供される役務の内容、代金額が重要な要素となるのであって、被告に葬儀施行を委託した場合に原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金を利用することができるかとか、原告会員等は何らの手続をしなくとも被告と原告との間で清算がされるかということは、葬儀代金の支払方法に関する事項であって、あくまでも二次的なものにすぎないと考えられる。現に、別添一覧表の番号20、27、35、39、42の葬儀については、原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金相当額を差し引いていない葬儀代金総額が請求書に記載されているのであって(しかも、別添一覧表番号27、42は、原告と被告とは提携しており、原告との互助会利用契約に基づく積立金が利用できると告げられたと原告実施のアンケートに回答している。)、このことからすると、原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金を利用することができることは、必ずしも被告に葬儀施行を委託した理由とはなっていないことを示しているというべきである。

確かに、甲第一七、第一八号証によれば、別添一覧表の番号32及び33の解約者(原告会員等)は、被告が執拗に被告に葬儀施行を委託するように勧誘し、その勧誘の中で、被告と原告とは提携しており被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金は利用することができると告げたというが、このことから、直ちに、被告が一般的に、被告に葬儀施行を委託するか決まっていない段階で、原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金を利用することができることをセールスポイントの一つとして、勧誘をしていたということはできないし、他にそのような事情を認めるに足りる証拠はない。しかも、前記のとおり、被告が、被告と原告とは提携しており、被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金を利用することができる旨告げたとする解約者(原告会員等)の中にも、葬儀代金総額から原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金相当額を差し引いた金額を取りあえず支払い、後日互助会利用契約を解約して得た返戻金を利用するなどして残金を支払う意図であった者(証人金沢柳一、同畑中秀勝)がいることからすると、被告と原告とは提携しており、被告が葬儀を施行しても原告における積立金は利用できる旨告げること自体が、原告会員等に何らの手続をせずとも被告と原告との間で積立金が清算されると誤認させ、被告に葬儀施行を委託することを決意させるほどの有効な方法であったとまでは言い難い。

3  以上を総合すると、本件において、被告がその営業方針として、被告に葬儀施行を委託することが決まる前に、被告と原告とは提携しており、被告に葬儀施行を委託しても原告との互助会利用契約に基づき積み立てた積立金を利用することができると告げて勧誘行為をしていたと認めることは困難である。

したがって、その余の点について検討するまでもなく、争点1、争点2(一)、同2(二)の原告の主張は採用できない。

二  よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

(平成一〇年一〇月二九日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 小出啓子)

目録(一)

謝罪広告

当社は、貴社と提携関係がないにもかかわらず、貴社と冠婚葬祭互助会利用契約を締結している会員(顧客)に対して「当社は株式会社大阪冠婚葬祭互助会とは提携しているので積立会費はそのまま使えますよ」「同じ互助会ですから積立会費は利用でき葬儀代金から差し引かせていただきます」等の虚偽の事実を告げて、当社との冠婚葬祭利用契約を締結させ、顧客にご迷惑をおかけするとともに、貴社の業務を不当に妨害いたしました。

よって、お詫びを申し上げるとともに再び同じような行為を繰り返さないことを誓約いたします。

平成 年 月 日

大阪市平野区瓜破東四丁目一番八三号

株式会社 栄光堂セレモニーユニオン

代表取締役 近藤盛之進

大阪市浪速区戎本町一丁目七番二三号

株式会社 大阪冠婚葬祭互助会

代表取締役 高瀬時人殿

目録(二)

一、掲載紙・掲載回数

朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞の大阪府内版に一週間の内に計二回(但し、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞は平日朝刊、日本経済新聞は平日夕刊)

二、掲載方法(枠および活字の大きさ)

別紙のとおり

〈省略〉

一覧表

〈省略〉

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